日本語には、読み方が同じなのに意味が異なる言葉が多くあります。
「会う」「逢う」「遭う」もその代表的な例です。
どれも「アウ」と読みますが、使われる場面や感情の含まれ方が大きく違います。
この記事では、それぞれの意味と使い分けを、初心者にもわかりやすく丁寧に説明します。
社会人がメールで迷いやすいケースも取り上げ、よくある誤用も避けられるように解説していきます。
3つの「アウ」の違いをまず簡単に比較

3つの漢字の違いは、次のように整理すると理解しやすくなります。
- 会う … もっとも一般的な「人と会う」。
日常的にもっとも多く使われ、ビジネス・プライベートを問わず幅広い場面に登場します。
約束して会う場合だけでなく、偶然に知人と出会う場面でも使われるため、汎用性が高いのが特徴です。
相手との関係性や感情の深さを特に問わないため、最もニュートラルで使いやすい表現と言えます。 - 逢う … 恋人や親友など、特別な思いが込められた出会いを指す表現。
胸が高鳴るような再会や、長く会えていなかった相手との時間など、感情の動きが大きい場面に使われます。
文学作品や手紙では頻出し、温かさや切なさを含むニュアンスを演出できますが、常用漢字ではないため公的な文書では避けられます。 - 遭う … 事故・災害・トラブルなど、予期せぬ望ましくない出来事に出くわす時に使われます。
突然のアクシデントや困難に巻き込まれる状況を表し、基本的にネガティブな文脈でのみ使用されます。
他の「アウ」とは明確に性質が異なるため、誤用を避けやすい漢字でもあります。
この3つは、場面の「性質」で判断するのがコツです。
たとえば、予定された普通の出会いか、気持ちのこもった特別な出会いか、あるいは避けたい出来事に巻き込まれたのかといった、感情の向きや状況の良し悪しが判断基準になります。
良い・悪い、感情があるか、予定しているかの違いで選び分けられます。
これらの観点を意識することで、文章の印象がより正確になり、読み手にも明確なニュアンスが伝わるようになります。
「会う」の意味と使い方
「会う」は、もっとも広く使われる一般的な言葉です。
人と顔を合わせることを指し、予定して会う場合も、偶然に会う場合も含みます。
日常会話でもビジネスでも、最も無難で汎用性があります。
また「会う」は、相手との関係性や場面の厳しさに左右されず幅広く使えるため、日本語の中でもっとも使用頻度が高い動詞の一つです。
相手の立場が目上か目下か、フォーマルかカジュアルかを問わず使える点も特徴で、メールや会話、ビジネス文書のどれであっても違和感がありません。
「会う」が使われる主な場面は次の通りです。
友達と会う。
知人と久しぶりに会う。
上司や取引先と会う。
面談や打ち合わせで相手と会う。
街で知り合いに偶然会う。
オンラインで人と会話する場面にも使われる。
このように「会う」は、日常におけるあらゆる“出会い”を自然に表現できる便利な言葉です。
社会人の文章では、原則として「会う」を使えば間違いありません。
例文としては次のような使い方があります。
明日、クライアントと会います。
重要な商談のため、午後から上司と会う予定です。
久しぶりに高校の友達に会いました。
街で偶然、中学の同級生に会いました。
オンライン会議でメンバーと会い、進捗を共有しました。
新しい担当者と初めて会い、挨拶を交わしました。
「逢う」の意味と使い方
「逢う」は、感情を伴う特別な出会いを表す言葉です。
喜びや愛情など、心が動くようなシーンで使われます。
一般的な文章ではあまり使われず、手紙や小説など感情表現が重視される文脈でよく見られます。
この言葉が選ばれる場面には、日常的な「会う」よりも深く温かい感情が流れていることが多いです。
相手の存在を大切に思う気持ちや、再会に込められた期待、長く会えなかったことで芽生える切なさなど、心の揺れが背景にあります。
そのため、「逢う」という表現は、単なる事実としての出会い以上に“気持ちを描写する”役割を持っています。
「逢う」が使われる場面は次の通りです。
恋人に逢う日を楽しみにする時。
長い間会っていなかった親友との再会。
思い出深い人との特別な待ち合わせ。
幼い頃からの恩師に久しぶりに逢う機会を得た時。
遠距離でしばらく会えなかった家族と、感動的に再会する場面。
常用漢字ではないため、ビジネスメールでは使用しません。
公的な文書や事務的な連絡では避けるのが一般的ですが、プライベートの文章では“心を込めたい時”に選ばれることがあります。
とくに手紙やメッセージカード、SNSのポストなど、感情を表現する場ではとても相性のよい言葉です。
また、「逢う」は相手との関係性やその瞬間の特別さを強調したい場合にも適しています。
例文としては次のような表現があります。
やっと、あなたに逢える日が来ました。
十年ぶりに親友と逢い、思わず涙がこぼれました。
大切な人に逢う時間は、いつも特別です。
離れて暮らす家族に逢い、胸が熱くなりました。
約束の場所で彼に逢った瞬間、懐かしさと安心感に包まれました。
「遭う」の意味と使い方
「遭う」は、事故や災害など、望ましくない出来事に出くわす時に使われます。
良い場面で使われることはありません。
基本的に「ネガティブな遭遇」に限定される漢字です。
この言葉には、自分の意思とは関係なく突然巻き込まれる“予期せぬ出来事”という意味合いが強く含まれています。
そのため、心の準備ができていないまま、トラブルに直面する場面を描写する際にぴったりの表現です。
また「遭う」は、日常の小さな不運から大きな災害まで幅広く使われる言葉であり、文脈によって深刻度が変わる柔軟さも持っています。
「遭う」が使われる主な場面は次の通りです。
交通事故に遭う。
予期しないトラブルに遭う。
突然の機械トラブルに遭う。
思わぬ災害に遭う。
強風や豪雨など、急な天候悪化に遭う。
体調不良や突発的な体の不調に遭う場面もある。
社会人の文章でもよく使われますが、意味が限定されているため誤用しにくい漢字です。
その一方で、「会う」「逢う」とは読みが同じため、慣れていない人は誤字として混同しやすい部分もあります。
特にメールなどでは「事故に会う」と誤って書かれがちですが、「遭う」が正しいため注意が必要です。
例文としては次のようなものがあります。
帰宅途中に交通事故に遭いました。
旅行中、思わぬトラブルに遭い、予定が大幅に遅れました。
突然の雷雨に遭い、びしょ濡れになりました。
公共交通機関の遅延に遭い、予定が大きく狂いました。
予想外の停電に遭い、作業が一時中断しました。
「会う」「逢う」「遭う」の使い分けまとめ
3つの「アウ」は、次の基準で使い分けると分かりやすくなります。
- 一般的な出会い → 会う。
これは最も広く使われ、日常生活のあらゆる場面で登場します。
計画的な約束にも、偶然の出会いにも使えるため、まず迷ったら「会う」を選べば大きく外すことはありません。
社会人のメールや文書でも最も安全な選択です。 - 感情のこもった特別な出会い → 逢う。
これは、心が動くような場面にふさわしい特別な漢字で、会う相手が大切な存在である場合に使われます。
再会の嬉しさや、長い時間を経てようやく出会える気持ちなど、文字そのものが感情の厚みを帯びています。 - 望ましくない出来事に出くわす → 遭う。
事故やトラブルなど、自分の意思とは関係なく突然巻き込まれる状況を表し、ネガティブな意味に限定されます。
そのため、他の「アウ」とは大きく性質が異なります。
一覧表にすると次のようになります。
- 人と普通に会う → 会う。
フォーマルでもカジュアルでも使える万能表現です。 - 恋人・親友・感動的な再会 → 逢う。
心のつながりや特別さをことばで表現したいときに最適です。 - 事故・トラブル・災害 → 遭う。
突然の出来事や困難に対して使われ、強い注意喚起の意味も含みます。
判断のコツは次の3点です。
感情があるかどうか。
望ましくない出来事かどうか。
予定した出会いかどうか。
この3つのポイントで判断すると簡単に使い分けられます。
また、この判断基準を理解しておくことで、文章に込められた意図がより正確に伝わり、読み手にも状況が鮮明に伝わるようになります。
特にビジネス文書やメールでは、誤った漢字を使うと相手に誤解を与えたり、文章全体の印象を損ねる原因にもなるため、基本的な使い分けをしっかり覚えておくことが大切です。
社会人が迷いやすいケースと注意点
社会人が文章を書く際に迷いやすいのは、次のような点です。
ビジネスメールでは原則「会う」を使う。
事務連絡や会議の案内、取引先とのやり取りなど、形式的な文章では「会う」がもっとも自然であり、相手に余計な印象を与えません。
特に初対面の相手や社外の関係者に対しては、誤解を避けるためにもシンプルで標準的な表現が重要になります。
「逢う」は常用漢字ではないため、公式文書では避ける。
感情のこもった温かい表現として魅力がある一方、ビジネス文脈では相手に違和感を与える場合があります。
また、常用漢字ではないため、読み手によっては意味が伝わらない可能性もあります。
公的書類や報告書では避けるのが無難です。
「事故に会う」は誤字で、「事故に遭う」が正しい。
似た読みの漢字で混同しやすい部分ですが、「遭う」には“不意の出来事に巻き込まれる”という明確な意味があり、事故やトラブルを表す際は必ずこちらを使います。
誤字があると文章全体の信頼性が損なわれるため、特に注意が必要です。
特に、仕事で使う文章は「無難さ」が重視されるため、迷った時は「会う」が最適です。
状況に応じて最適な漢字を選ぶことは大切ですが、ビジネスの場では読み手に誤解なく伝わる表現が最重要です。
判断に迷う時や、相手との関係性が不明確な場合は、最も一般的で誤解の少ない「会う」を選ぶことで、文章全体の印象を安定させることができます。
FAQ(3問)
Q1:オンラインで「会う」と書くのは正しい?
正しいです。
オンライン会議やWeb面談でも「会う」を使います。
これは、対面で顔を合わせる場合と同じように“人との接触や対話が行われる”という点を押さえているためです。
オンライン上での出会いや対話は、デジタル空間であっても「互いがその場に参加し、顔を向け合う」という性質を持っています。
そのため、実際のビジネスの現場でも「本日お会いしたオンライン会議では…」といった表現が一般的になっています。
Q2:恋人でも「会う」と書くのは変?
まったく問題ありません。
日常的な文脈では「会う」で十分自然な表現です。
ただし、感情を強調したい時に「逢う」を使う表現が文学などで見られます。
感情の高まりや特別な思いを描きたい場合には「逢う」を使うことで、文章全体が柔らかく温かい印象に仕上がります。
一方、チャットやメッセージなど日常のやり取りでは「会う」の方が読み手に与える印象も自然で、誤解も少ないため実用的です。
Q3:「事故に会う」と書くのは誤字?
誤字です。
正しくは「事故に遭う」です。
「遭う」は予期せぬトラブルやアクシデントに巻き込まれる状況を表すため、「事故」のような望ましくない事柄と組み合わせて使われます。
一方「会う」は人との出会いを意味するため、「事故に会う」と書いてしまうと意味が変わってしまいます。
ビジネス文章や報告書では特に誤字が目立ちやすく、信頼性に影響することもあるため注意が必要です。
まとめ|3つの「アウ」を正しく使い分けよう
「会う」「逢う」「遭う」の3つの漢字は、読み方が同じでも意味が大きく異なります。
一般的な出会いは「会う」。
感情的で特別な出会いは「逢う」。
望ましくない出来事は「遭う」。
この三つの言葉は、同じ読みであっても表す感情や状況が全く異なるため、使い分けを理解することで文章の質が大きく向上します。
それぞれの言葉が持つニュアンスを意識すると、相手に伝わる印象もより正確で丁寧になります。
たとえば、「会う」であれば誰に対しても使える無難な表現ですが、「逢う」を使うと特別な感情が伝わり、「遭う」を選べば状況の深刻さや避けがたい出来事に巻き込まれたことが明確になります。
このように、違いをしっかり理解することは、文章の読みやすさだけでなく、コミュニケーションの精度を高めることにもつながります。
ぜひ日常生活やビジネスの文章で、今回の使い分けを意識してみてください。

